乳牛と出会って五十有余年、この間、育てた乳牛三百数十頭になり、福井県内で酪農歴は「年齢・経験」共に最高位になってしまった。酪農を始めた頃、日本酪農の大先輩である、金木精一先生(千葉県)の言葉に強烈な教訓を受け感動した。それは、「親に勝る子を育てよ」の一言である。今も新鮮な言葉であり、私もこの一言にこだわり続けている。
私の牧場は三十頭ほどの小さな牧場で、乳しぼりをしている。現在、すべての乳牛は自家生産牛である。自分で人工授精し、助産し、哺乳して育成する。年間、約二十数頭の子牛が生まれる。雄、雌、大体半分である。これは自然界の法則である。内、数頭を後継牛として育成している。唯、今日までの五十数年間に何十頭もの子牛の育成に失敗もして来ている。その失敗は大きな経験であり、勉強をさせてもらった。「人間社会で許される事ではないが…」
子牛の育成で一番大切なことは、生まれたら出来るだけ早く、親の初乳を充分に与える事だ。そして、清潔で乾燥した居場所にすることだ。子牛によく接し、絶対に手荒な事は禁物だ。愛することが子育ての信条である。その後、県営の奥越高原牧場で、集団生活を経験し、初産を孕んで帰って来る。
県営牧場の職員から「名津井牧場の牛は扱いやすい牛が多い」と云われたことがある。それは、子牛の頃の接し方によって、人間の考えに添い、意を介するのが早いのではないかと思う。
数年前、私は地区の「子育て支援委員会」の会長を二年務めたことがあった。会の挨拶の中で、「親に勝る子を育てよ」の事について話した時、講師の先生から「含蓄の有る、良い心情を聞かせてもらった」と云われた事があった。
また、結婚式でのスピーチを頼まれた時、最後に「若いお二人で、今日から、自分に勝るとも劣らない子を産み育ててください。そして一人と云わず、三人四人生み育ててください、それは日本の為でもあります」と結んでいる。